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2023-09-04

仕入日記:ヤマノネ硝子【後編】

ご紹介したいことが多くて二部構成になってしまったこのブログ。
どうかお付き合いください。前編はこちらです。

ヤマノネ硝子の加藤岳さんと田中淳子さんは、京都の晴耕社ガラス工房でガラスの仕事を学びました。
埼玉出身の加藤さんは、大学の時に東京で見た晴耕社ガラス工房の荒川尚也氏の仕事に魅せられ、これがやりたい!と京都に荒川氏を訪ねて行ったという強者。
工芸を学んできた訳でもなく全くの未経験でしたが、逆にそれが良かったのだそうです。

というのも、学生の頃からガラスをやっていると、最初に教わったやり方を変えられなかったり、自分の拘りが強過ぎたりして、荒川氏の工房には合わないとのこと。
弟子入りして1~2年はひたすらガラス玉作りをやらされたりもするので、基礎は学校でもう学んだし、自分は作品が作りたい!という考えだったりすると続かないそうです。

また、荒川氏のところはガラスだけをやれば良いのではなく、京都の山奥で薪を割ったり小屋を建てたり、様々なことをさせられたそう。
正に生きることそのものを学んだという感じで、この経験がヤマノネ硝子の仕事への取り組み方にかなり影響しているのだなと、お話を伺って腑に落ちました。

田中さんも同じく未経験でガラスの世界に飛び込みました。
動機がこれまた面白くて「普通に就職するのは向いてなさそうだったから」。
どんな仕事をしようかと考えていた時にたまたま見つけたのが、晴耕社ガラス工房だったのです。
「知らないこと新しいことを日々させてもらえるのが楽しかった」と田中さん。
学生の頃から作家を目指しているような人には怒られそうな動機ですが、今ではこんな美しいガラスを岡山の山奥で吹いているのだから、人生というのは不思議なものですね。

この日は今夏らしい不安定なお天気。途中ザっと雨が降り出しました。
そろそろお暇しなくては、そう思っていたら、急に雨に濡れながら母屋に走り出す田中さん。
何を取りに行ったかと思えば、なんと店主の為に傘を持って来てくれたのです・・・その気配りに感激。
店主は天気予報を見まくるタイプなので、折り畳み傘を持っていました。
御礼を言いつつそう伝えると「わたし天気予報全然見ないんです」と笑っていました。

吹きガラスの仕事は基本的には何人かで分担しながら行うものです。
そんな工房での修業の成果なのか、元々の勘の良さなのか、ふとした時のお二人の細やかな気配り、効率を重んじる無駄のない動きが非常に印象的でした。

1人で作る技術はどうやって身に付けたんですか?と加藤さんに尋ねると、荒川氏の元では自家再生ガラスを使って弟子たちが作るシリーズがあって、それで練習して覚えたとの返答。

自家再生ガラス。ヤマノネ硝子の「古色」と呼ばれる色味のアイテムも、それにあたります。
どういうことかといえば、ガラスを吹いた後の竿に僅かに残るガラス。これも無駄にするまいと、少々金属が混ざっているこの破片も溶かしてまた使う、これが自家再生ガラスです。
古道具屋にありそうな、ちょっとレトロなアイテムにこのガラスを使っています。

ちなみにヤマノネ硝子では、珪砂をはじめとしたガラスの原料を11種類自家調合しています。
実はこの話をしていた時が、加藤さんの声が一段と大きくなった瞬間でもありました。
というのも、夏にガラスを吹くのは大変だけど、原料を作る作業がそれ以上に辛いのだそう。
何しろこの暑さの中、防塵マスクに防護服で取り掛からないといけない、そういう過酷な作業なのです。

そこまでして調合しているものの、陶磁器のように一目瞭然!という違いがないのがガラスです。
「陶土について語りやすい焼きものの人たちが羨ましいです」と加藤さん。
確かにパッと見では違いが分からないかもしれませんが、固まるまでの速さ、伸びやすさなど、非常に細かい調整を経て調合することで、思うように吹くことが出来るようになるのだそう。
全ての工程が繋がって、ヤマノネ硝子らしさが生まれているのです。

原料ガラスは自分で調合せずに仕入れる、工房もレンタルスタジオを借りて作る、そんな作家も多い昨今、ヤマノネ硝子のやり方は想像以上に無骨で、誠実なものでした。
作りたいものは何気ない、主張し過ぎない、使いやすく、暮らしに溶け込むもの。「本当は名前も出したくない」。

今回現地を訪ねて、お話を伺って、店主が惹かれた理由の答え合わせをしているような、終始そんな感覚でした。
可能な限りの工程を自分たちの手で行う、それによってヤマノネ硝子らしさをガラスが纏ってくれる、そんな風に言っていた加藤さんの言葉通り、それが伝わったからこそ店主も「欲しい!」と思った、そういうことだったのでしょう。

仕事の様子もお話もとにかく面白くて、暑さも忘れ、あっという間に時間が過ぎていました。
お二人のお人柄にも通じる、無名性を意識した日常使いに相応しいヤマノネ硝子のガラス器たち、ぜひたくさんの方にお手に取って頂ければと思います。

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