toggle
2023-09-04

仕入日記:ヤマノネ硝子【前編】

基本的には現地に赴いて実物をきちんと見てから仕入れるかどうかを決める、それが店主のこだわりではあるのですが、いろいろリサーチする内「これは欲しい・・・!」と思ってしまい、内心では不安になりながらも注文をさせて頂いた品、それがヤマノネ硝子のガラス器。

もしがっかりするような品だったとしても、それも勉強の内・・・そう思いながら届いた段ボールを恐る恐る開けたわけなのですが、どれもこれも想像以上の美しさ!
ホッと胸をなでおろし、そこからはニヤニヤでの開封作業となりました。

品物は送って頂いたものの、やはり現地は見たい。作り手のお二人にも会いたい。
何度かお互いのスケジュールの調整をしながら、8月某日、漸く行ってきました岡山。

岡山は4~5回目の訪問ですが、今回は4年振りくらいでした。
ホテルにチェックインして腹ごしらえして、ローカル線で和気へ。ヤマノネ硝子があるのは美作なのですが、交通の便がかなり悪い・・・ということで、お忙しい中を加藤さんが和気まで迎えに来てくれました。感謝。

道中に晴耕社ガラス工房での修業の話やガラスの世界に入ったきっかけ、岡山に築炉した理由など伺いながら30分ほどで工房に到着。田中さんが仕事の手を止めて出迎えてくれました。

吹きガラスは火の仕事。夏は特に過酷です。
坩堝(るつぼ)に近付くだけでカメラが壊れてしまいそうな熱気。
この中にドロドロに溶けたガラスが入っています。

ちなみに坩堝(るつぼ)は3~4ヵ月で使えなくなる消耗品です。
一度、交換のタイミングなのにもう少し使えるんじゃ・・・?と粘ってしまい、坩堝に穴が開いてガラスが流れ出して大惨事になったそう。下の画像がその穴の開いた坩堝。

こちらでは工房のありとあらゆるものが、お二人の手によるもの。
設定温度に応じて炉にオイルを送り込むシステムも、炉も徐冷窯も型も、あれもこれも、自作です。
すご過ぎませんか?工房作りには半年かかったそうです。

こちらは徐冷窯。つまり徐々に冷ますための窯。
吹いたばかりの片口を収めた瞬間をパシャリ。
すぐに閉めないと温度が下がり過ぎてしまいます。

下の画像は型いろいろ。
店主の知る限りでは、結構世の中に出回っているものをアレンジして型として使う、という方が多かったりするので、まさかここまで自作しているとは・・・驚きです。
櫛目風の型とかすごいですね。加藤さん曰く「力技です(笑)」。

これまた自作の謎の洗濯板のような道具。
まさかの平皿にも使われている、柄を付けるための道具です。

このプレーンで美しい皿のどこに洗濯板が使われているのか・・・
気になる方は店頭で店主にお尋ね下さい。

極めつけはメカな雰囲気のこちら。さて何の型でしょう。

しかも動きます。棒を持って閉じます。

正解はこの蓋もの。

開いた状態の型にガラスを入れて、もう1人が型を閉じる。
すると下の画像のようなものが出来て、これを2つ作り、それぞれカットして出来上がり。
ちゃんと上下が嵌るように仕上げるのが難しいそうです。

いちいち感心してしまう店主に「ついこの道具作りの方が楽しくなっちゃったりします」と笑う加藤さん。
次々新しい型を作ってみたくなる加藤さんを横目に、黙々と定番のガラスを吹く田中さん。
とてもバランスのとれたお二人で、阿吽の呼吸で淡々と進む作業を眺めるのは心地よい時間でした。

ちなみに黙々と淡々と作業を進める田中さんの仕事のひとつ、屋号入れ。

先日送られてきたもの、削りたてでした。白くなったところを拭うと・・・

屋号が出てきました!そう、まさかの全て、手書き(手削り?)。

お二人がこの岡山に築炉して1年と少し。元々岡山には縁もゆかりもなくて、ずっと場所を探していて、たまたま見付けたのがこの美作だったそう。
「どこでも良かったんです」とは言いながら、今ではすっかり集落に馴染んでいるご様子でした。
何しろ広くて工房も、仕上げや梱包などの作業場も、倉庫も、生活する場所も、申し分なく整っていて、ほとんど改装などもせずに住めたというのだから、これも何かの巡り合わせなのでしょう。

さて、長くなってきたので前後編にします。
なぜガラスの仕事をはじめたのかなど、後編はこちら

関連記事