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2020-08-28

仕入日記:吹きガラス工房 琥珀

少し前にとある催事で見かけたガラスが気になって、お盆明けに工房を訪ねました。

とにかく暑い日で、いつも開いている訳ではないというギャラリーも工房も空調はなく、作り手の斉藤さんも私も汗だく!
こんな時期に来てすみません・・・という感じでしたが、しっかり時間をとってお話を聞かせて下さいました。

斉藤さんがガラスの世界に飛び込んだのは、たまたま見たテレビがきっかけでした。
そこに映っていたのは琉球ガラスの稲嶺盛吉さん。
ちょうど組織の一員として働くことに疑問を感じ始めていた頃で、やってみたい!と弟子入りを志願します。

しかしそう簡単には入れません。
人気作家である稲嶺氏の工房には既に7~8人の弟子がいて、定員いっぱい。
空きが出たら声を掛けて欲しいとお願いして待つことにしましたが、半年1年と時間だけが過ぎます。

運良く沖縄での住み込みの仕事が見つかったので、弟子入りできるかどうかも分からないままに沖縄へ。
頻繁に工房に顔を出す内、ようやく弟子入りが認められたのでした。
願い出た時から2年以上が経っていました。

途中で気持ちが変わることはなかったんですか?と聞くと、不思議とそれはなくて、ガラスをやりたい思いは変わらなかったと。
実は斉藤さん、大学卒業後、一度は就職が決まっていました。
そのタイミングがなんと、ちょうどバブル景気の終焉と重なっていたのです。
内定先は北海道の企業で、北海道拓殖銀行の破綻の影響で内定は取り消しに。

これだけ聞くとなんて不運!と思いますが、これがなかったら斉藤さんはガラスの作り手ではなく、北海道でホテルマンになっていました。
そうなっていたら、恐らく私がお目に掛かることはなかったでしょう。人生って不思議です。

4年ほどの修業期間を経て福岡へ戻り、自分の工房の準備に取り掛かります。
お金が少し貯まる度に工房づくりの材料を買い、自分で組み立て、また働いて、の繰り返し。
しかも吹きガラスの仕事は、数人で分業してするのが基本です。
それを1人でするにはどういう工房にすればいいか?試行錯誤の日々。
またもや2年ほどの時間を掛けて、遂に「吹きガラス工房 琥珀」をオープンさせたのでした。

お金があれば設備をいっぺんに購入してすぐ始められたんですけどね、そうもいかなくて、と笑顔で話す斉藤さん。
お膳立てされた環境よりも一から自分で工夫しながらやる方が好きだそうで、それはそれで楽しんでらしたのかもしれません。
同業者に工房を見せると、あまりのアナログぶりに驚かれるようです。

例えば下の画像で牛乳ビンが置いてあるのは、除冷窯(吹いたガラスを緩やかに冷ます窯)の温度を見るのに使っているから。
普通の工房は温度計を使いますが、斉藤さんは窯の中に牛乳ビンを入れて、その歪み具合で適温かどうか見極めています。
(稲嶺氏の工房では修業当時、新聞紙を適当にちぎって丸めて窯に放り込み、3秒で燃えたら適温、という見極め方だったそう!)

ポンテ竿(ガラスを吹く道具)も専用のものを使うのが普通ですが、斉藤さんが使うのは主に工業用のステンレスのパイプなど。

型吹きガラス用の型も、買い物に出た際に何か使えるものないかな?という感じで専用のものはあまり使いません。
レモン絞りとグレープフルーツ絞り。
ペーパーウェイトなんかがこれを使ってますね。

独立してしばらくは、シンプルなものよりも自分らしいものを、という思いが強かったそう。
なので、ほかの工房では作らないような、独特な形のものが多かったとか。
しかしある時、以前近所にあった喫茶店から「ふつうのコップを吹いてほしい」と頼まれます。

誰が吹いても同じだろうと疑問を持ちながらも注文に応え、作ったコップが「アラビカグラス」。
とってもシンプルで、コップといえばこういう形、というものです。
どこにでもありそうなのに徐々に一番人気となって、気付けば定番商品として7~8年吹き続けているそう。

私が最初に目を留めたのも、この「アラビカグラス」でした。
シンプルで使いやすそうな形とサイズ、でも原料ガラスとは違う再生ならではのぽってりとした厚み。工業製品にはない、手吹きらしい“ゆらぎ”。

ガラスは陶器よりも作り手の特徴が見えにくいかもしれませんが、シンプルな品にこそ、その特徴がよく表れるように私は思います。
それはガラスに限ったことではなくて、美味しい野菜はシンプルな調理が一番だし、良い洋菓子店はショートケーキが抜群だし、優れたデザイナーの作るTシャツは美しいし、音楽家の才能をより感じるのはシンプルなパフォーマンスだったりします。

アラビカグラス」をきっかけに気持ちに変化があったという斉藤さん。
それまで避けていた型吹きの品も少し増えているようです。

斉藤さんは琉球ガラスの工房で修業されて、工法もそのままに、文化としての再生ガラスの仕事をしていく事にこだわっています。
なので使うのは再生ガラスのみ。主にお酒の廃ビンが材料です。
これを洗って砕いて溶かして、着色はせずにそのままの色で吹きます。

無色透明も良いですが、個人的にはコーラの廃ビンの色が好きです。
ほんのりグリーンがかった絶妙な美しい色。
コーラのビンってそういえばこういう色だよね、という感じで、形が変わると随分違って見えるものです。

上の画像はコーラ色の「ロッカクロック」。型吹きのロックグラスです。
色は廃ビンそのまま、型を使うので大きくは形も変えられない。
そういう制約の仕事の中に、にじみ出るものがあるように思います。

「吹きガラス工房 琥珀」の商品はONLINE SHOPでお求め頂けます。ぜひご覧になってみて下さい。
それから再生ガラスのことは以前こちらのブログに書いてますので、こちらもぜひ。
廃材を使う仕事だからといって、単に“エコ”で片付けていい話ではなかったりします。

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