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2020-08-21

仕入日記:名尾手すき和紙【後編】

前編では名尾和紙の歴史などについて書きましたが、後編は見学させて頂いた工房のことを。

一般的に流通している和紙の多くは、海外から仕入れた原料が使われているものがほとんど。
(タイが多いとのこと。温暖な気候で日本では1回しか収穫できない楮を、年2回収穫可能なのだそう)
ですがここ「名尾手すき和紙」では、主原料の梶の木を自家栽培しています。

和紙の三大原料といえば「楮」「三椏」「雁皮」ですよね。
「梶の木」は楮の原種となった外来種。元々は中国からきた品種だそう。
ちなみに一般的な楮はこの梶の木と、姫楮という在来種を交配させた品種です。

梶の木の収穫は毎年1~2月の最も寒い季節。
高さ2メートル以上にまでなったものを刈り取り、そこから剥がした樹皮が原料となります。

収穫したらすぐ蒸して、熱い内に樹皮を剥がします。
すぐにやらないと剥がれなくなるので、スタッフ総出でいっぺんに。
それを干してしっかり乾燥させたものを、保管しておきます。

使用する時は水に晒して戻し、長さを切り揃えてから大釜で煮ます。
その後また水に晒し、柔らかくなった繊維を今度は機械で叩き、更に柔らかくしていきます。

次に機械で攪拌し、絡まりあった繊維をほぐします。
攪拌機には大きな鎌のような刃が付いていますが尖っておらず、繊維を切ることはありません。あくまでほぐすだけ。

繊維がほぐれると綿のように柔らかくなります。

さて紙漉きの原料は3つ。
ここまで加工してきた梶の木と、きれいな水。それと「トロロアオイ」です。

トロロアオイの根を1年以上水に浸けておくことで粘りが出ます。
画像で伝わるでしょうか、ものすごくネバネバです。
これを「ネリ」と言い、いよいよ紙を漉く段階で使用するのです。

このトロロアオイ。私はてっきり繊維をくっつける役割だと思っていました。
が、それは間違い。

極端な話、梶の木と水だけでも紙にはなるのだそうです。
ただ、そうすると均一で滑らかな仕上がりにすることが非常に難しい。

トロロアオイを使うことで、漉き簀(すきす)から漉き桁(すきけた)をザバッと持ち上げた際の、水が落ちる速度が遅くなります。
それだけ、滑らかに繊維を整える猶予が生まれるということ。

このような“流し漉き”と言われる方法を使うことで、和紙は薄く丈夫なものとなります。
平安時代にはこの製法が生み出されており、ここから日本の紙は独自の品質を保ってきたわけですね。

こちらは作るものによって使い分ける、様々な漉き桁。
明治の頃から使っているものなど、年代物もかなりあるそうです。

さて話が逸れましたが、3つの原料が揃いました。
これを漉き簀に入れて調合し、漉き桁ですくい、紙を漉きます。
漉いた紙はどんどん重ねていき、まとめて圧縮機にかけて水分を絞ります。

その後1枚1枚を鉄板に貼り付けて乾燥させていくのですが、この貼り付ける作業が難しいのだそう。
そのため、専門の職人が担っているのだとか。
刷毛で空気を抜きながらきれいに貼り付けなくてはいけないとのことで、経師屋さんを思わせます。

こうして乾燥させたら、検品作業です。
異物が入っていたり、均一な仕上がりでなかったり、質の悪いものを弾きます。

弾かれたものがこんなに・・・でも紙漉きの仕事には基本的にB品はありません。
なぜなら、水で溶かせばそのまま再利用できるので無駄がないのです。
再利用しても品質にはまったく影響がありません。それは攪拌の工程で繊維を切っていないから。

なお、流し漉きが発明された平安の頃、紙は高級品だったので「漉き返し」も始まります。
「漉き返し」とは使った紙を溶かして再利用すること。
今も昔も、紙漉きはエコな仕事ですね。

名尾手すき和紙では様々なアイテムを作っていて、アイテムによって上記の工程に更に作業が加わります。
上の写真は柿渋で染めて、乾燥させているところ。コースターとテーブルランナーです。

樹皮や花びらを一緒に漉き込んだり、漂白(薬剤を使うそうですが、一般的な洋紙と比べるとかなり少量しか使用しないそう)して白く仕上げたり、それを更に染めたり。
前編に書いたように、自由な発想で臨機応変に様々な仕事に取り組んでおられます。

ちなみに、和紙はきれいな水がある地域で作られていることが多いですよね。
なんとカルキの入った水道水を使うと、カルキの層が紙の表面に出てしまうのだそうです。

それから、水の温度でネリの状態が変わってしまう、というのも大きな理由のひとつ。
ここでは地下水を使っているので、常に水温は一定に保たれています。
元々和紙の仕事は冬の農閑期にするものでしたが、それも暑さでネリの粘りが消えてしまうからなんだとか。
今は工房にエアコンがあるとはいえ、やはり夏は漉きづらいとのことでした。

ほかにも7代目から興味深い話を伺ったのですが、それはまたの機会に。
初めての和紙の仕入、まずは取り入れやすいものを選んできました。
もう残暑とはいえ、まだしばらく厳しい暑さが続きそうなので団扇もあります。
興味が湧いた方はぜひ、ONLINE SHOPを覗いてみて下さいね。

最後に店主の個人的な話を。

名尾和紙は、福岡県八女市の筑後和紙から技術を学びました。
筑後和紙は、越前から来た日源上人によってその技術がもたらされました。
日源上人の出身は、越前の五箇村。現・福井県大野市です。
さて店主の父は福井県大野市の出身。母は福岡県八女市。
名尾和紙の歴史は、なんだか他人事とは思えないのでした。

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